セブンイレブンの強みにせまる3回目は、1回目、2回目で仕組み的な話をしましたが、そんな仕組みを作った創業者の思想の話。
1回目→セブンイレブン研究~強さの秘密①NDFとチームマーチャンダイジング
2回目→セブンイレブン研究~強さの秘密②他社によるセブンイレブン専用工場
日本最強で、今や世界一のコンビニチェーンとなったセブンイレブンの礎を築いた創業者は、やっぱり偉大だと思うのです。
セブンイレブンの創業者は鈴木敏文氏です。
その彼がどんなことを考えて会社運営をしていたか?
その思想に触れて、セブンイレブンの強さを明らかにしたいと思います。
創業の歴史
まずは簡単に、創業の歴史から。
セブンイレブンは1973年にイトーヨーカ堂から独立という形で、
米サウスランド社からセブンイレブンのライセンス供与を受け、鈴木氏が中心となって創業しました。
イトーヨーカ堂の社員だった鈴木氏はアメリカ視察でセブンイレブンを見て、これだ、と思ったらしい。
当時は大型店舗のスーパーマーケットでの展開が主流だったところ、大型店舗と小型店舗の棲み分けで、小型店舗ができることもたくさんあるのではないか、と。
創業当初は、ライセンス契約したサウスランド社セブンイレブンの仕組みがほとんど使えず、日本では何事も一からの構築だったらしい。
また、鈴木氏を含む、創業時の新会社の役員は個人でも出資して起業したとのこと。
いわばオーナー社長のようなものです。
本人も著書の中で、自分のことを会社人と思っていないと言っています。
会社の方針を決める上で、会社の都合を判断根拠にしていない、と。
そもそもの出自が一般的な企業のサラリーマン社長とは異なります。
セブンイレブンに、ユニクロ、ソフトバンク、楽天のような強さを感じるのはまず、これです。
セブンイレブンの会社運営の具体的方針と言動
さて、私がセブンイレブンに関する著書をいくつか読んだ中で、鈴木氏の考えや会社運営の方針が特に現れていると思うのは次の3点です。
- 情報投資はケチらない
- 質は量を凌駕できない=質へのこだわり
- お客様のためにではなく、お客様の立場で
これらについて紹介していきます。
情報投資はケチらない
セブンイレブンではPOSをいち早く導入していますが、POSのマーケティングへの活用はセブンイレブンが日本初です。
その取り組みはハーバードビジネスレビューにも取り上げられていて、そこでは、仮説と検証を実践し、正しいデータ活用を行っている数少ない企業と紹介されています。
POSを導入した理由は、発注管理・在庫管理のためではなく、どういう商品がだれにいつ売れるかという”情報”を活用するため。
データを集めるのは手段であって目的ではない。
データはツール、仮説を立てるために使え、仮説は現場(バイトやパートの従業員)に委ね日々検証だ、と鈴木氏は言っています。
セブンイレブンはPOSシステムを全店舗に接続したり、データの伝達速度を早める大規模な情報化を繰り返しており、これまで積極的な情報投資を行っています。
また、セブンイレブンでは、OFC(オペレーションフィールドカウンセラーのこと。地域ごとに加盟店へ経営カウンセリングする人たち)が約1500名おり、かつては隔週で全員を本社に集めて、新商品の紹介や販売方針の説明を行っていました。
1500人の東京への交通費を考えると、オンライン会議の方が圧倒的に低コストで済むはずなのですが、この方式は一貫して変えなかったらしい。
ダイレクトコミュニケーション(直接対話)に勝るものはなく、その投資は長期でみてプラスに働くと考えていたとのことです。
OFCの立場で考えて、ずっと担当地域に常駐するより、週一で仲間に会ったり、東京へ出張することでのリフレッシュの効能を重視していたのかもしれません。
これも情報投資をケチらない考えの一つです。
直近ではセブンイレブンのデータ基盤をgoogle cloudで構築するというニュースがありました。
今も情報投資を積極的に行っているセブンイレブンらしいニュースだと思いました。
質は量を凌駕できない
セブンイレブンの記念すべき第1店舗目は、東京都の豊洲です。
そこから、2店舗目、3店舗目と、しばらくは江東区から出ず基礎を固めました。
都内の数店舗の時点から、店舗の質(店舗あたり売上・利益)にこだわり、もっと規模が大きくなった時のことを考えた行動をしていました。
・例えば、正月の三が日にも営業しようとしたとき。
商品の配送を卸問屋に受け入れてもらえず、社員の判断で自社で賄っていたところ、鈴木氏は、店舗が増えたらそんなことはできない、なんとか卸問屋に対応してもらうよう交渉することを厳命。
・加盟店オーナーに不幸があったとき。
役員が弔問することさえ、数が増えたときの未来を考えて自粛。
・他社がライセンスフィーの値下げをして加盟店争いをする中。
質(店舗あたり売上・利益)にこだわり、値下げ競争には参加せず、決してライセンスフィーは下げなかった。
食料品の品質と味へのこだわりは素人が考える想像以上です。
・有名な話は関東、関西で味付けが違うこと。
ざるそばのつゆは関東は濃い目で関西は薄め。
・材料を変えている惣菜もあります。
肉じゃがの肉は東日本は豚、西日本は牛。
玉子焼きは全国的には厚焼き玉子だが、関西はだし巻き玉子を販売している。
・おでんのつゆ。
店内に匂いが充満しないように工夫に工夫を重ね、出汁である鰹節のカツオは自前で調達している。
・チャーハンの開発。
どうしても既存の釜ではパラパラのご飯にならないため、釜から作り直した。
工場は1つではない。全国の、それもメーカー保有の工場の窯を全部刷新した。
・昨今大ヒットのコーヒー
質にこだわった結果、コーヒーメーカーは職人の入れ方を再現したものをベンダー(富士電機)に作ってもらっている。
このような質へのこだわりは、量だけ追い求めてもダメ。
質は量を凌駕できないという徹底した考えに基づいています。
お客様のためにではなく、お客様の立場で
上にも書きましたが、鈴木氏は、物事の判断基準を会社としてどうか、ではなくお客様にとってどうか、で判断すると言っています。
・東西で味を変える質へのこだわりも、
・24時間営業も、
・作りたてを店舗に配送するために店舗のより近くに工場を建てるのも、
・流通小売業が銀行業を始めてしまうのも
すべてお客様の立場で考えた結果です。
”お客様のためにではなく”とはどういうことでしょうか?
お客様のために、というと、売り手としてお客様にできることは、という視点になってしまう。
自分たちができる範囲でお客様のためにするといった感じで、自分たち都合の制限が入ってしまう感覚があります。
そうではなく「お客様の立場で」考えると、ゼロベース思考になります。
自分たちの立場は置いておいて、お客様が本当に求めるもの、それを叶えるために売り手として必要なものはなんなのか、と考えるようになります。
このような思考をすると、当たり前だと思っていたものが、実は障壁になっていることがわかり、結果として、取り組みが革新的なものになります。
鈴木氏は以下のように言っています。
いかなる過去の強者・覇者と言えども、時代の変化に対してイノベーションを怠った瞬間、衰微・衰退は免れ得ない。イノベーションとは世の中の変化のもとでどんどん要求レベルを高め、売り手から見ればわがままになっていくお客様のニーズに対して、自らのありようをかえることによって、それを合理的に受け入れられるようにすることである。
「お客様の立場で」という思考をすることで、セブンイレブンはこれまでの常識を覆しながら成長してきました。
これらは、全て企業トップの言動によるものが大きいと思います。
つまりセブンイレブンの強さの根本は創業者である鈴木氏の思想にあると言えるのです。
1回目→セブンイレブン研究~強さの秘密①NDFとチームマーチャンダイジング
2回目→セブンイレブン研究~強さの秘密②他社によるセブンイレブン専用工場
<参考文献>
– セブン-イレブンだけがなぜ勝ち続けるのか
– セブン-イレブン 終わりなき革新
– セブン-イレブン 金の法則 ヒット商品は「ど真ん中」をねらえ
– わがセブン秘録
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鈴木さんの著書のレビュもどうぞ