人の行動はその人個々の意思に関係なく、組織のルールや仕組みに規定されるという話がある。
例えば、かつての官僚の天下り問題は、
官僚のトップである事務次官は同期で一人しかなれないがゆえに脱落者の居場所がなくなるためであり、
また、官僚が独自に天下り先を作れてしまう仕組みのせいである。
さらに、天下り先としてつくる〇〇団体などをありがたがる世間の風潮もそれに十二分に寄与することになる。
他の例として大企業病については、
本来はお客様に対する価値を提供することが企業体としての使命であるところ、
企業内部で部署ごとの数字を競わせることで縦割り文化が醸成されたり、
昇格するには肩書きが必要という内部事情で無駄な部署を作ったり、
またそれらの部署を作れてしまう仕組みや肩書きが仕事の進め方を左右してしまう風潮のせいであったりする。
そのため、仕組み作りはその仕組みによって意図しないことが発生しないよう、よほど入念に行わなければならない。
また、その仕組みが存在する目的についてはトップがメンバーに説明し、メンバーがよく理解する必要がある。
特に、雰囲気、風潮の作り方は組織のトップやリーダーによるところが大きい、
いやむしろ、組織のトップやリーダーはそこが最も注力すべきところであるし、自分の言動で示さなければならない。
名著「失敗の本質」には次の一文がある。
組織の戦略原型が末端にまで浸透するためには、組織の成員が特定の意味や行動を媒介にして特定のものの見方や行動の型を内面化していくことが必要であり、このようなパラダイムの浸透には組織のリーダーの言動による影響力が大きい。
戸部 良一他著「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」
現代の成功した経営者はこのことを多分に意識した組織運営をしている。
Amazon創業者のジェフ・ベゾスは、
- 中間管理職はいらない、優秀な実働部隊がフラットな体制でいればよい。問題解決にもっとも適しているのは、問題にぶち当たっている彼ら自身なのだから、と言っている。
- また、ピザチーム(1枚のピザを食べる上限の4〜5人)が1チームの最適人数だ、とも。
- マイクロソフトが大企業病に陥って成長が鈍化したことを反面教師にして徹底的に分析し、企業内政治がはびこらないことに腐心している。
本著者であるセブンイレブン創業者の鈴木敏文もその1人である。
彼は、セブンイレブンを日本はおろか世界のコンビニチェーンに導いた偉大な経営者であるが、
本著を読むことで、彼が組織運営の本質を理解しており、それを意識した言動を行なっていたことがわかる。
- 新しいことを始めるとき、失敗してもよい、店がつぶれてもよいから今までとは違うことをやるように、と言った。失敗するなと言うとこれまでのやり方に縛られてしまい新しいことをやるのに躊躇してしまうからだ。
- 米国や北京のセブンイレブンで単品管理を徹底させるため、米国でのPOSシステム導入時や北京でのセブンイレブン展開開始時、あえてPOSを使わせず、現場に手作業で在庫管理と受発注をさせた。あくまでPOSデータはツールであって目的ではないことを理解させるためだった。
- 「金の麺 塩」の発売日にこれはお客様を満足させる味ではないと判断したとき、すでに店舗に納品済みだったもの一度も売ることなく廃棄した。廃棄費用は6000万円かかったが、納品分だけでも売ることなくまた、廃棄の代わりに社員に配ることもしなかった。お客様の信頼を失うこと、社員にこれくらいの味でよいと思われ、品質水準が下がることを嫌った。
- 鈴木は商品を”おいしければおいしいほど同じくらい飽きる”と考えており、それを社員に浸透させるため、大ヒットした「金の食パン」の発売したその日にリニューアルを指示した。
- そこそこ、まあまあで妥協しないことを徹底した。人事制度の評価では、○よい、△普通、×悪いのうち、△を排除した。
- セブンイレブンの加盟店(フランチャイズの店舗)契約では、廃棄ロスの15%は本部負担としている。これは加盟店に積極的な受注を行わせ、機会ロスを回避するための仕組みである。また、水道光熱費の80%は本部負担としている。これは加盟店が電気代を節約しようと店舗内を暗くしたりすることを防ぐための仕組みである。
この本は大小いかなる規模の組織でも、リーダーとなる人が読むべきであり、
また組織人であればその組織をよくするために全員が読むべき本である。
なお、ここまでは本著を通して組織運営の本質を理解すること紹介したが、
本著は、”未来に向かって敷かれたレールはない”、未来のレールは自分で築き上げるものであり、
本著がその一助となることを目指して、新しいことを発想する方法や物事の判断の尺度はどうあるべきかについて書かれたものである。
(敬称略)
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セブンイレブンの強さの秘密について書いてみました